未来のかけらを探して
一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―5話・呪いに倒れた村―
―翌々日―
一行はセシル達の協力により、無事に目的地の島にたどり着いた。
ここは、ミスリルの村の島近辺にある小島だ。
「いっや〜無理言ってわりーな。」
「いいのよ、あなたが言った場所が当たりだろうから。」
当たりとは、セシル達が持っているマグマの石を使う場所である。
それを当てる代わりに、乗せてもらったのだ。
「お兄さんたち、ありがとう!」
「またねぇ〜!」
「バイバーイ!!」
飛空艇は離陸し、遥か彼方へと飛び去っていく。
セシル達と別れたので、後にはプーレ達とロビン、くろっちだけだ。
「おい人間、てめーは?」
殺気だった声でグリモーが問いかける。
飛空艇に乗る事で、たくさんの人間の気配とにおいにさらされたからだ。
姿は目を閉じれば見ないで済むが、気配とにおいはどうしようもない。
「ん〜、どうしよっかな〜?」
ロビンは、ぽりぽりと頬を掻く。
留まるなんていったら、グリモーがどんな顔をするか手に取るようにわかる。
「ねーねー、一緒にいこーヨ〜。」
「またそれかーーーー!!!!」
プーレの予想通り、グリモーはぶち切れた。
「(どうする?)」
グリモーの絶叫に苦笑しながら、くろっちはロビンに相談した。
居たらこの子には嫌がられるけど。とは、見てわかるのでいわなかったが。
「じゃ、折角だし。」
その瞬間、グリモーは本当に目の前が真っ暗になる感覚を覚えた。
全く冗談ではない。
ただでさえ、大嫌いな人間の姿になってストレスがたまっているのに。
故郷の火事以来最大のグリモーの悲劇だ。
「でも、グリモーは?」
目の前、いや将来が真っ暗になって絶望しているグリモーを見れば、
くろっちはともかくロビンとはどう考えてもうまくいくわけがないのだが。
「え、大丈夫だヨ!」
その根拠のない自信はどこから来るんだと、
会ってから日が浅いロビンとくろっちは心の中で2人で同時につっこみを入れた。
「大丈夫、グリモー?」
気遣うように声をかけるプーレ。
だがもう彼はヤケだった。肩に触れようとしたプーレの手を跳ね除ける。
「勝手にしろ!」
「じゃ、決まりじゃねーか。ま……俺は人間だけどよろしくな。」
「(とりあえず、主人共々荷物持ちにはなるからよろしく。)」
こうしてパーティに初めて人間、それも大人が加わった。
さて、約一名は不満たらたらだが、ロビンの存在は貴重だった。
約一名も文句を出さなかった相棒のくろっち共々、
大人ならではの経験や知識、力はやはり子供とは数段違う。
「すごーい、楽々だねぇ〜!」
「そりゃ、このぐらいは軽いぜ。」
子供なら難しいテント張りも、彼のおかげで楽々。
くろっちはあまりテント張りは手伝えないが
重い荷物を運んだり、疲れた子供達を乗せてくれる。
何よりロビンよりもずっと落ち着いているので、
暴走しそうになる仲間をなだめてくれる。
「ねぇくろっちさん、なんであなたのご主人は
動物と話が出来るの?」
「(う〜ん・・生まれつきらしいね。)」
どういう親かという疑問がわいたが、とりあえず黙っておいた。
「生まれつき〜?なんじゃそりゃ。」
「(本人は物心ついたときからそうだっていってるよ。)」
「すごいネー!」
パササは目を輝かせている。
まぁ、単純といえばそれまでだが。
「人間かよ・・ι」
「グリモー、暗示でもかけたら?
少しは嫌になんなくなるかもよ〜?」
くすりとプーレが笑う。
「な・・それとこれは別だ!!」
「そんな顔真っ赤にして怒んなくてもいいじゃないか〜。」
「怒りんぼだねぇ〜。」
きゃいきゃい騒いでいる子供達。
目的をちゃんと覚えているか疑問である。
さて、夕飯を食べ終えた一行は、そろそろ就寝時刻を迎える。
しかし、その前に六宝珠の二つから話を聞く。
“レムレース村とは狩猟の村。
後に、魔物退治を生業とするようになった。”
“もしもサファイアを持つのが魔物ならば、
知っているかもしれないしな。”
宝珠は、仲間の居るおおよその位置しかわからない。
弱くなったつながりから、わずかに感じている程度なのだ。
「じゃあよー、二人ぐらい行きゃ済むんじゃねーの?
聞くだけだろ?」
「もー、わがまま言わないでよ!」
「みんなで行くのぉ!決定ぃ!!」
エルンがわがまま封じに走る。
「何だと〜!!」
『あきらめろ〜。』
ロビンとくろっちが同時に同じ意味の単語を発した。
レムレース村は、ここからさして離れてはいない。
したがって、明日の昼前にはたどり着く予定だ。
グリモーは、当然巻き添え。
森をてくてく歩いていくと、村が見えてきた。
「さ〜て、ついたぞー。」
『わーいわーい!』
ついたので一息。
大げさな動作こそしないが、プーレも嬉しそう。
ところが、くろっちが主人共々眉をひそめている。
「どうしたノ?」
「なぁ、変だと思わねーか?」
『?』
子供達は、きょとんとしている。
「そう言えば、誰も居ないね。
気配はちゃんとあるのにね・・」
「おねぼうさんだねぇ〜」
一気に気が抜けた面々。
「それ、ぜってー違う!」
“……ι”
グリモーは、頭を抱えながら言った。
「ここ、本当にどうしたんだろうネ〜。」
その後、もっとも人が集まっている建物に行った。
どうやら、村の診療所らしい。
「なんか、苦しそうな声が聞こえるよぉ……・。」
「そうだな。一体どうしちまったんだか。」
中の人間を驚かせないように、ノックする。
程なく、中から扉を開けてくれた。
「えっと……外の方ですよね?」
「おぅ、まあな。」
出迎えたのは、十前後の幼い少女。
それでも、子供達よりは軽く3、4歳は上だろう。
「おねーちゃん、白魔道士なの?」
「うん。まだ、見習いなんだけど……。」
と、彼女の胸元にひときわ目立つ巨大な宝石があった。
おもわず、言葉が漏れる。
「六宝珠……?!」
「六宝珠……?」
しまったと思った。
少女の訝しげな眼差しで、あせるプーレ。
あたふたしているので、余計怪しまれそうだ。
「あー、大陸で名が知れたお宝だよ。
こいつ、ボーっとしてたから見間違えちまったんだって。」
「あ、そうですか。なーんだ。」
幸い、ロビンがごまかしてくれた。
(プーレてめぇな……+)
(ごめん……ι)
「ところで、ここどうしちゃったの?
なんだかみんな苦しそうだねぇ……。」
床には、所狭しと転がる人々が居る。
皆、苦しそうに咳き込んだり、中には吐血するものも居る。
尋常ではない。
「呪い・・これは、呪いなの。」
『呪い?!』
人々を襲った呪いとは何なのだろうか。
それを教えてもらいたいと頼んだところ、
それについては、少女よりも先輩の白魔道士が説明してくれることになった。
「ここは魔物退治を生業としております。
ですから、時には厄介な魔物も相手にせねばなりません。
時には、外の島々まで出向く事もあります。」
「そうなんだ……。」
周辺の島は、遠くミスリルの村まで及ぶ事もあるという。
報酬さえ払えば、依頼主は小人でもいいらしい。
「ふーん……じゃあ、大方そん中にそういう奴がいんだな。」
「それも勘なのぉ〜?」
「こんぐらい、考えりゃ分かるよ。」
話が少々それたが、構わず話は続けられる。
「そんな所です。村の皆を襲ったのは、
どうやら精神を蝕むようなのです。」
「それでなんでああなるんだよ。」
最もな疑問である。
別に、呪いで体調を崩す事は珍しくないが。
「あの呪いは、精神と共に肉体も侵してしまうのです。
故に、精神の魔法に抵抗がないものが次々とやられていくのです。」
よく見ると、患者は男性ばかりだ。
女性は魔道士になる事が多いのだろう、ほとんど居ない。
「じゃあ、あの人たちそうなんだネ。」
「ええ……。けど、この呪いは広範囲にかけることが難しいものです。
つまり、普通ではここまで被害は拡大しません……。」
呪いは常に、自らも巻き込まれるリスクを負う。
人を呪わば穴二つというくらいで、当然報いを覚悟しなければならない。
にもかかわらず、これだけの人数を一気に呪った。
「すっげーてだれってことか。」
「しかも、これはいわゆる俗物的な手法ではないでしょう。
本格的なものに間違いありません。」
俗物的ではないと言うことは、すなわち犯人は呪いのプロということである。
事態は重い。
「ふん、他愛もないのぉ。所詮、人なぞこの程度か……。」
一人の術師が、水晶に映し出される様子を見て呟く。
そこに映るのは呪いに苦しむ人々と、プーレ達の姿だった。
「抜かるでないぞ、ヒルフォーン。」
そばに控えた二人の部下のうち、異形の姿をした者に対して術士が問いかける。
「えぇ……承知しております。必ずや、始末致しましょう。」
術師は、その返事に満足そうな不気味な笑いを浮かべる。
「そして、六宝珠……必ずや奪って見せましょう。」
さらにそう部下が付け加えると、その笑いは一層満足そうなものになる。
「期待しているぞ。」
部下の一人は、その言葉を聞き届けてから姿を消した。
術士は、残ったもう一人の部下の方を向いた。
「どうだ、ピーレ。こやつの首を取りたいか?」
「えぇ……この者の首は、必ず私が……!」
暗き部屋で交わされる会話は、外の者に聞こえる事はなかった。
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ロビンが本格的に加入しました。
そして、敵方が初登場。しょっぱなから意味深に仕立てたつもりです。
まぁ、それよりプーレ達には呪いの方が問題ですが。
全体的な手直しと、最後の方の表現がおかしかったので修正(2004/3/18)